「量子コンピュータは何でも解ける」──その誤解を正す
量子コンピュータに対する理解として、よく見かけるのが次のような誤解です。
「量子コンピュータは、あらゆる問題を超高速で解決できる」
確かに、量子ビットによる並列的な重ね合わせ状態は、従来のコンピュータでは到達不可能な計算能力を理論的に提供します。しかし、この性能はすべての問題に万能に適用されるわけではありません。
なぜなら──
量子計算では「計算後の状態を測定して初めて結果が得られる」からです。そしてこの測定には、非常に大きな制約があります。
量子アルゴリズムの多くは、目的の答えを高い確率で測定できるように波動関数を干渉させて調整する、という構造をとっています。つまり、量子で“解けるように設計された問題”だけが高速に解けるのです。
「量子で解けるように調整」されていなければ、無力
この「調整」という条件が、実は非常に厄介です。少しでも構造が合わなければ、状態ベクトルの干渉がうまく働かず、最終的な測定結果から何も有益な情報が得られません。これはつまり、“計算はできても答えが得られない”という失敗状態に陥ることを意味します。
よって、
量子コンピュータは「調整次第で超高速になる可能性があるが、そうでなければ何の役にも立たない」
というのが、より現実に即した理解です。
それでも量子耐性が必要な理由
一部の暗号アルゴリズム──特にRSAやECDSAなど構造が「周期性を持つ」問題は、ショアのアルゴリズムの対象として極めて「調整しやすい」ことが知られています。
つまり、量子で解けるように調整されやすい暗号が存在することは事実であり、だからこそそれらに対する“量子耐性”の必要性は現実的なものとして研究が進められているのです。
総括
要点をまとめると:
- 量子コンピュータは「なんでも解ける」は誤り
- 解けるのは「量子で解けるように調整された問題」に限られる
- 解ける問題に関しては脅威であり、耐性技術は必須
- だが「すべてが量子で破られる」という全能視点は誤認
量子コンピュータの現実的な脅威を正確に把握するためには、こうした“適用領域の限定性”をしっかり理解する必要があります。そしてその上で、真に必要な防御策(量子耐性)を、現実的なスパンで進めていくことが肝要なのです。